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大阪高等裁判所 平成5年(う)123号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人谷口忠武、同豊田幸宏共同作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原判決は、花こう岩が風化した土砂も採石法二条にいう花こう岩に含まれると解釈して、被告人が花こう岩を採取したとしているが、被告人が採取したもの(以下「本件採取物」という。)は、「真砂土」といわれるが「土」または「土砂」であつて、社会通念上も鉱物学上も花こう岩ではなく、採石法二条にいう花こう岩ではないのであるから、採石法の解釈を誤つており、したがつて、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というものである。

以下、この点につき、記録を調査し、当審における事実調べの結果を併せて検討する。

1  関係証拠によれば、本件採取物は、「真砂土」と呼ばれている花こう岩が風化した土砂で、通常、造園用土として、時には、砕骨材の代用品として(沢井三男の警察官調書)、業者によつて採掘、販売されているものであること(したがつて、表土は含まれない。)が認められる。

2  そこで、まず、このように花こう岩が風化した土砂と採石法の立法目的との関係について考えてみると、採石法は、岩石が土木建築用、工業用等の重要な基礎資材であり、その需要の高まりに応じて各地で大規模な採取事業が行われるようになつたことから、採石業者の登録、採取計画の認可等の規制により、当該事業に伴う災害を防止し、併せて採石業の健全な発達を図ろうとするものであるが、岩石が生成状態のままで風化し、土砂状になつているようなものでも、それが採取事業の対象となり、資源としての有用性と採取事業に伴う災害発生の危険性が認められる限り、法による規制の必要性という点では、風化が進んでおらず岩状を呈しているものと何ら異ならないのである。

所論は、採石法は、砕骨材、石材、工業用原料の確保を目的としたものであり、花こう岩についても、そのような資材として建築や土木に用いられるものであることを前提として規制の対象とするものであるから、砕骨材、石材、工業用原料のいずれにも利用できない本件採取物は、採石法の規制の対象ではなく、このことは、本件が立件されるまで長年にわたり直砂土を業として採取することを採石法によつて規制してこなかつた行政の取扱例から見ても明らかであると主張するが、岩石の用途が産業の発達に伴つて拡大、変化する場合、同法が規制の対象である岩石の用途を限定していない以上、これを立法当時の用途に限らなければならない理由はないというべきであり、関係証拠によれば、行政面においても、真砂土採取が企業として採算が取れるようになつた昭和四〇年代以降、通産省及び建設省の通達等に基づき、真砂土も採石法二条の岩石に該当するとの見解に従つた運用が全国的になされてきたことが認められるのである。

3  次に、風化花こう岩が採石法二条にいう花こう岩に当たるかどうかについて考えてみると、その風化花こう岩が、母岩である花こう岩の存在していた位置でそのまま風化していて、右母岩からの成因関係が明らかであり、かつ、風化の度合いも、母岩と化学的性質を異にするほど進んでいない場合には、たとえそれが岩状でなくなり、土砂状になつていても、前記のような採石法の立法目的から見た規制の必要性並びに同法と同じく地下資源の採取、開発を規制する砂利採取法等との各適用範囲の関係に照らしてみると、これを採石法二条にいう岩石として罰則を含む同法の規制の対象としても、いまだ合理性を失わず、同法が本来予想している適用範囲を超えるものではないというべきである(なお、砂利は、砂利採取法による規制の対象となるが、その生成過程からみると、河川の上流部に存在する岩石が、長年月の風化作用によつて母岩を離れ、あるいは流域に存在する砂礫が浸食作用によつて崩壊し、これらが河川の流水中を転々硫下する間に丸味を帯びた大小の粒状になつたものというのであるから、母岩の生成状態のままで土砂状に風化したものとは明確に区別することができる。)。

4  ところで、関係証拠によれば、本件採取物は、花こう岩地帯のほぼ中央に位置する山林の地下から大規模に採掘されたもので、もとは岩状の花こう岩であつたが、長年の風化作用によつて、風化前の岩石の位置及び外形を保つたまま土砂になり、未風化のいわゆる転石とも混じつて存在していた風化花こう岩であることが認められ、母岩のあつた位置にそのまま存在していたのであるから、母岩からの成因関係は明らかであるうえ、風化の程度が進んで土砂状になつてはいるものの、なおその粒子は花こう岩の主成分である石英、長石類、黒雲母を主体としていることも認められるから、母岩である花こう岩と同一の化学的性質を保有するということができる。

所論は、風化した花こう岩の風化がさらに進めば、粘土鉱物からなる粘土(例えば蛙目(がいろめ)粘土)になつてしまい、それらはもはや花こう岩とは質的に別の物であるから、ひとくちに真砂土といつても風化の度合はさまざまであることを考慮し、本件採取物と花こう岩との化学的性質の同一性を判断するにあたつては、単に石英、長石、雲母が含まれているかどうかを検査するのではなく、微細な粒子からなる粘土鉱物との固定が必要であつたのに、本件鑑定は、鑑定資料から粒径一四九ないし二五〇ミューミクロンの砂粒だけを拾いあげて検査したに過ぎず、これのみでは花こう岩との化学的性質の同一性を判定するに足りない、というのであるが、鑑定人平岡義博作成の鑑定書によれば、鑑定資料中に含まれる粒径一四九ミューミクロン未満の粒子の割合は約一〇ないし二五パーセントに過ぎないのであつて、本件採取物を粘土と認定するのは相当でない。

したがつて、本件採取物は、採石法二条にいう花こう岩にあたるといわなればならず、論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき同法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青木暢茂 裁判官 梶田英雄 裁判官 寺田幸雄)

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